ビルに願いを。


「意味がわからない」

私達のブースの真ん中にテーブルを持って来て説明した私に、細く長い脚を組んだ丈が呆れ気味に言う。

「どの辺が? 遠足って行ったことあるでしょ? アメリカにはないの? それともオリエンテーリングがわからない?」

矢継ぎ早に聞く私を、丈が片手で制した。

「それより前に、なんで俺がその企画をやらなくちゃいけないのかがわからない」

「作りたいものがあれば上達が速いって言ってくれたから考えたの。遠足を盛り上げるアプリを作りたいって」

だんだんわかってきたこと。この人はなんだかんだ言って他人に優しい。

特にやる気のある新人には手を差し伸べてくれると知った今、やる気を見せて頑張るしかない。えげつないが仕方ない。本人のためだから。

言わずにこっそりって言うのが嫌だけど、それも条件の1つだからね。

「作るところだけ手伝うよ。なんで歩き回るのも一緒に行くの」

「それは……」

そこを突かれると痛い。引きこもりから外に連れ出す約束なだけ。



でも、実際に歩いてもらったらイメージを伝えやすいとか何かアイデアが浮かぶかもとか、いろいろ理由を捻り出して説得を試みた。

「誠也だな」

丈にボソっと指摘され、返す言葉が出ない。あなたのお兄さんのは条件付きの愛なんですとは言えない。

「またクビにするとか言われた?」

そうではないのですが、言えないんです。と目だけで訴えてみる。

「しかたないな、どこに行くって?」

結局はそれ以上聞かずに折れてくれた。愛想がないのに、やっぱり結局は優しい。

勘違いさせてることに胸が痛むけれど、彼自身のためだから仕方ないよね。

ため息をつく気だるげな仕草がかっこいいと思ってしまうのは、単に美形だからであって、この優しさに惚れたとかそんなことではないはず。

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