ビルに願いを。
遠足の下見という名目の散歩は、一応お休みの土曜日にすることにした。
丈は土日もビル内にこもって仕事をしたりしているようだけれど、私は土曜にここ来るのは初めて。
いつもよりまばらな人の流れで、3階まで吹き抜けている1階エントランスホールががらんとしている。
ホテル用エレベーターから降りてくるのを少し離れたところで待つ。
あ、来た、と思ったら、隣にきれいな女の人を連れて楽し気に話しながら歩いてきた。
丈が私を見つけると、彼女は笑って手を振りエントランスのほうへ去っていった。
女の人を連れ込んでるの? ケイティはどうしちゃったの!
「なんだよ?」
予想外の事態に声が出ない私に、丈が怪訝そうに歩み寄る。
いや、こういうことはプライバシーだから、突っ込んじゃいけない。いろんな考え方がきっとあるし。
丈の足元を見ながら、急いで考える。
悪気がなさそうだから、オープン恋愛ってやつかもしれない。この人も寂しいと人肌恋しくなっちゃう人かもしれない。女と違うし、男はそういうことをしても誰にも咎められないのかもしれない。
そうだ、女グセが悪いらしいって圭ちゃんも言ってた。そういう人なんだ、だから気にしなくていい。
頭の中でたくさんの言い訳をあげてみて、でも、実際にはなぜか「いやだ」と思っていた。