ビルに願いを。

私がなぜこんなところで働いてるのか、実は私もまだよく受け止めきれてない。


あの日、この面接は何かの間違いだろうとか、憧れのタワービルB.C.square TOKYOを社会科見学とか思ってた私は、採用がその場で決まった瞬間には口をぽかんと開けていた。


「オフィス階の上半分、アッパーフロアは平均年収4000万と言われているの。法律事務所やコンサルティング、どれも世界的な企業。
フェニックスではエンジニアでもそこまでお給料は出してないけどね。社長やジョーは株式を持っているからそれ以上の収入のはず。だから平均で言えばうちもそんな感じかな」

スタッフ部門のトップ、いかにもできる女の麻里子さんは涼しい顔ですごいことを教えてくれた。

そんなすごい会社になぜ私かというと、前職がアジア英語への対応だったのがよかったらしい。

アジア系エンジニアの皆さんの役に立つだろうって。




「ただし」と面接責任者でもあった麻里子さんは言った。

「スタッフは別ね。フェニックスはエンジニア中心の会社なの。私達は彼らにいかに気持ちよく効果的に働いてもらうかを考えるのが仕事。どういうことかわかる?」

「エンジニアさんはお客様ってことですか?」

「そう!仕事内容も待遇も何もかも違うから、そこはお客様だと思って。でも仲間としても振る舞う。そのさじ加減が難しいけど、あなたならできる」

はっきり言われたわけではないけれど、待遇の違いを不満に思いそうにないロースペックな私が気に入られたらしい。

開いた口はどうにかふさがって、これが現実だと少しだけ思えた。
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