ビルに願いを。
「水曜の夜、仕事の後にラウンジ行くから空けといて」
何気なく丈に声をかけられた。連れて行ってくれるとは言ってたけど、本気だったんだ。なにか理由をつけて断らなきゃと思ったら、先に言われる。
「アッパーフロアのお偉方中心にパーティだって。誠也と麻里も一緒だよ」
麻里子さんも? それなら仕事的な立場で行けばいいのかな。断れるような雰囲気でもないし、久しぶりの上司命令だ。
ということにしておこう。
正直に言えば、浮かれないように気をつけてても難しいくらい心は浮き立っていた。
何を着て行ったらいいかもまだわからないけれど、着飾ってエスコートされてパーティに参加するのに憧れない女子なんている?
それに最上階の会員制ラウンジについては、イラからも噂を聞いていた。
「入会は会員からの紹介限定なんだって。フェニックスからはセイヤとジョーだけだけど、上の階だと弁護士とか投資顧問のパートナークラスまではだいたい会員らしいよ」
「男の人ばかりなの?」
「そうでもないんじゃない? でも同伴者を1人ずつ連れて行けるらしいから、アンはきっとジョーに連れて行ってもらえるよ! いいなあ、私も誰か捕まえようかな」
捕まえた覚えはないのだが、社内ではすっかりそう言う話になっている。丈と社長が兄弟だと言うのは外部の記事で知ってる人もいるけれど、きっとケイティのことは誰も知らないんだ。
ケイティの代わりに同伴。
それでも別に構わないと思い始めるくらいには、私は浮き足立っていた。足をすくわれる瞬間をどこかで待ちながら。