ビルに願いを。

翌朝、迷いながらももらったネックレスをつけた。白いシャツの第2ボタンを開けて、チェーンが見えるか見えないかぎりぎり程度になるのを鏡の前で確認する。



社長との会話では、丈の一時帰国が決まってるみたい。

それに、本格的に帰国するのもそれほど遠くない。チームで動き始めたばかりだから、もう少し長くいるかもしれないけれど。

わかっていれば大丈夫。と自分に言い聞かせてみる。浮かれて立場を見失って、周りを傷つけるようなことをしなければ。

今だけでもいいから、そばにいたいから。





その日は一日中、なんとも言えない気持ちだった。お互いに普段通りにしていたけれど、時々目が合うと微笑み合うような、くすぐったい時間を過ごした。

でも難しい部分の解決策を相談した時に、マウスの上の指輪を長い指でトントンと叩かれた。

でもこれは、ずっとしていたお守りで、していないと落ち着かなくて。



昨日外した途端に松井くんに遭遇しちゃって、今日も本当はエレベーターホールに行くのも怖かった。

でも指輪があれば会わない気がする。インターンってどのくらい続くんだろう。早く終わってくれればいい。向こうだってきっと二度と関わり合いたくないだろう。



困って恐る恐る顔を見ると、丈は怒ってはいなくて、髪をくしゃりとなでられた。

ずるいんだよね、きっと。指輪もネックレスも両方つけてきて、丈に完全に心を預けるわけでもないのに、見捨てられないように。

やっぱりね、ずるくてビッチなのかもしれないよ。英語のほうの意味であっても。


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