ビルに願いを。

「杏ちゃん」

夕方、日が暮れかけた頃、ブースの上から声をかけられる。麻里子さんとニュースチームの編集長さんだ。

「ジャーナリストのK. Setoさんて知り合い?」

「はい」

「ご家族だって名乗られてるけど」

「あ、はい。瀬戸圭一ですよね」

「本当なのね。 電話が入ってるの、内線で回すわね。申し訳ないんだけど、外部からなので聞かせてもらわなくちゃいけないの。ごめんね」


圭ちゃんから会社に電話? どうしたの? スマホが鳴った覚えはないけれど。なにか緊急?


「圭ちゃん? どうしたの?」

緊張しながら聞いた質問に返ってきたのは、いつも通りの緩い返答だった。

『おお、つながった。今成田なんだけど携帯なくてさ、雑誌の記者さんのを借りてるんだけど』

「東京なの?」

『だから成田空港。明日また出なくちゃ行けないから、仕事終わったら来れないか? エアポートホテルに泊まってるから』

「エアポートホテル? 携帯ないんでしょ? 部屋番号は?」

『405。寝てたら起こしてくれ。何時でもいいよ』

日本語だからわからないはずなのに、周りは何か緊急だと思ったみたいで、「家族が待ってるなら早く行った方がいい」と促してくれる。

丈も「遠いよね、成田」と言ってくれたので、すぐに出ていいってことらしい。急いで片付けてオフィスを後にした。

明日も仕事なんだから、飛んで帰って来なくちゃ。

何ヶ月かぶりに帰ってきたかと思ったら明日出るなんて、本当に計画性がない!


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