ビルに願いを。

しばらくしてから席に戻ると、丈はいなかった。社長に呼ばれて行ったよと言うので、戻ってきたら話そうと思っていたのに、いつまで経っても戻ってこない。


「なにかあったのかな」

イラも言っていたけれど、緊急の打ち合わせとかあるのかもね、と誰も心配している様子はなかった。丈がふらりとどこかに行くことは、確かにたまにあるんだ。

だけど、どうして？

怒ったの？ 松井くんみたいにがっかりした？




午後になっても、丈は席に戻らなかった。やるべきことはいろいろあって、丈がいなくても進められることもいくつかあって、私は席を離れなかった。

自分で止めることが出来ないから、神様の采配なのかもしれない。

誤解されて、嫌われちゃえばいいって。

過去も未来も無くなるように。そんな風に祈っちゃったから、あの時間だけがプレゼントされたのかもしれない。



帰り道、最寄の駅からそのまま地下鉄に乗る。週末はオンラインで勉強しよう。映画も久しぶりに見てみよう。

さみしくても1人でいられるってことを、きっと私は思い出さなくちゃいけない。