ビルに願いを。
丈、どうしてるのかな。連絡してみる?
でも今は私と話したくないだろうか。メッセージだけでも送る? それならいいよね?
『大丈夫ですか?』
ダメ。家族を失った人が大丈夫なわけない。
『東京で待ってるね』
押し付けがましい。
『みんな心配してるから』
みんなって誰だ。こういう言葉を丈は好きではないだろう。
言葉を選ぶのが難しくて、何度も書いては消して、何も送れないまま諦めて席に戻った。
やっぱり電話にしよう。お昼休みにもう一度思い立つ。
今なら向こうはきっと夜。出たくなければそれでいいし、出てくれたら何か励ましの言葉を言えるかもしれない。
いつも静かなライブラリーに行ってみる。コードの話を図書室のことと間違えたなんてね。今の私ならさすがに笑える。
ねえ。あれはまだほんの少し前のことなのに、あなたのおかげで、たくさんのことを覚えたよ。
だから非があるとしたら私だから。あなたが早く帰れるようにって祈るのをやめた私だから。
どうか、自分を責めずにいてください。
外から見つからないように木目のドアに寄りかかって、7コールで切ろうと決める。1, 2, 3, 4, 5, 6回。
出ないかなと思った時に、コール音が消えた。でも、無言だ。
「丈?」
呼んでみても何も返ってこない。
「聞こえてる? 杏です……うまくつながってないかな?」
それとも黙ってる?
「切るね? あの、またかけるから。もし、誰かと話したくなったらと思ったんだけど、大丈夫ならいいんだけど」
『……杏?』
「うん」
『注射を、打ったんだ。眠るように死ねるってやつ』
「うん……でも会えたんだね」
『最後に俺に会えてケイティは幸せだったとか、言うなよ』
低い、怒りを含んだ声だった。誰かにそう言われたんだろう。
『腫瘍から来る痛みに耐えてた。俺がもっと早く楽にしてやればよかったし、できないならそばにいてやればよかったのに、ほったらかしにした』
仕事がとか、パスポートがとか、そんなことを言っても仕方ないんだろう。