ビルに願いを。
「でね、俺なんて今1人で開発してるでしょ? 自信はもちろんあるんだけど、バックエンドはコードレビューないとやっぱり不安なわけよ。ここの人達って他チーム関心なくてね。特にうちなんかメインじゃないし」
「お前ね、そういうの杏ちゃんに言っても」
日本語なのに意味がよく分からない話を一気に始めた彼を、隣の編集長さんが止めてくれる。確かにぜんぜんわからないけれど、それを聞くのが私の仕事だ。
海外ニュースチームの日本人エンジニアさんは、公用語がほぼ英語になっているこの会社で相当にうっぷんがたまっているらしい。
国内外のニュースを集めて、ユーザーに応じて表示するようなサービス。一部は要約と翻訳が入るので、編集長さんがいるわけだ。
「あの、確かに今はわからないのですが見捨てずになんでも話してもらえたら嬉しいです」
「見捨てず?」
「そのうち理解して、何かできるようになるはずなので」
「そのうちかあ。そうだよね、俺もそのうち英語もう少し楽にできるようになるかな」
「毎日聞いていれば慣れますよね、きっと」
自分への暗示を込めてそう言うと、疲れ切っていたエンジニアさんの顔が少し明るくなった。よし、掴みはオーケーだ。
しばらくはこうやってエンジニアさん達の話を聞きながら仲良くなってと言われている。グチ係?
日本人、アジア人、アメリカ人。多国籍だけどアジア系が多い。5-6人ずつの小さなチームが半円のブース2つを向かい合わせて外向きの円になって仕事をしている。
1人で集中しつつ、話し合うときは後ろを向いて円の中央に集まるようだ。
なるほど、それでこんな形。
忙しいエンジニアであるここの人達は、私に構ってる時間も惜しんで働くのではと思ったら、意外と自由に暮らしている。
だよね、社内にゲームコーナーあってレーシングマシンやってるんだもんね。寝られるし、おしゃれなお弁当の配達もあるし、住めるんじゃないかな、ここ。