ビルに願いを。
速く速く、速く歩く。
気づいたら東京タワーに向かって歩いていた。丈と2人で歩いた道を、1人速足で行く。
ヒールに構わず走った足が疲れて、今日はもう階段で登る元気はないと思った。
うん。でも、がんばろう。
エスカレーターで行ける3階の屋上で外階段を登るチケットを買って、今度は1人で展望台を目指す。
息が切れても、引っ張ってくれる手はない。
頑張れ、私。大丈夫、登りきれる。ちゃんと1人で登れたら、本当に平気になる気がするから。
誰かの助けを待ったりしないで、帰りを待ったりしないで、本当に好きな人を追いかけることができる気がするの。
穢れを自分で振り払って。
走った後の身体は重くて、ヒール靴はスニーカーとは違ってて、2人で登った時の倍は時間がかかりそう。
それでもなんとか登りきった。楽しそうなカップル達の間で1人、達成感に息をつく。
登りきった夜の展望台は混んでいて、夜景を静かに楽しむというよりは少しにぎやかな雰囲気。
ふーっと息を整えて、あの場所を目指す。
B.C. square TOKYOは今日もよく見えた。夜は夜で内側から輝くビル。
金曜の夜、まだほとんど全部の窓に灯りがともっている。彼女と丈がいるはずの高い場所まで。
手を合わせて、久しぶりにお願いをする。これが最後の願いごと。
大好きって言えますように。
終わりが来るなら、もっと早く伝えればよかった。
でも今なら、まだ会えるから。もう壊れるものなんて、なんにもないから。
目を開けて、薬指から指輪を抜いた。
もう大丈夫。本当に好きな人以外と、そんなことはしない。
松井くんでも、誰でも。寂しいからってついて行ったりしない。誰のせいにもしない。
丈じゃないなら、意味がないから。
もう指輪に守られなくても、私は自分でちゃんと歩ける。