ビルに願いを。
7.ずっと一緒にいられますように
翌朝は、間近で聞こえる英語で起こされた。丈が寝たまま向こうを向いて、電話で話している。

「OK、じゃあ後で」

切ってから上半身をくるりと回転して、私を振り返る。私もジムに通おうかと思わされる、きれいな筋肉。

「ごめん、起こした?」

「仕事? アメリカから?」

「いや、メイから。あの後どうなったんだとか、紹介しろとかうるさい。後で一緒に朝飯かなんか食べに行っていい?」

私はいいけど。彼女の方は複雑なんじゃないの。

ついて来たってことは何か期待してただろうし、私は宣戦布告とかされるんだろうか。

「元カノなんだよね?」

「ハイスクールの時ね。今はもう友達」

それ以上説明するつもりはないらしい。私だって圭ちゃんと疑われたら嫌だし、嘘ついてるわけじゃないと思うけど。

「朝ごはんはどこで食べてるの? フロントの横のラウンジ? 下まで降りてる?」

「ほとんどルームサービス」

ルームサービス! 高いんでしょ、それって。毎日運んでもらってるの? お金持ちって変!

「和食が食べたいんだよ。あそこそう言うのないから」

嫌そうな顔で言い訳される。普通ここで、ルームサービスなんて素敵!っていうところなのかな。でも毎日って。

「家では自分で作るの?」

「朝ぐらいはね。あとカレーは作れる。インドの奴」

「インド系の彼女もいたの?」

さりげなく聞いたつもりなのに、返事はなく、肘を立てて頭を支え楽しそうに私を見ている。

気になるでしょう普通。どういう子と付き合ったことあるの、とか。

「答えるつもりがないならいいけど」

「杏は、いつも裸で寝てる?」

何言ってるの!!!

今はそういう状況なだけで、ここにはパジャマもないし、昨日は泊まる準備なんてあるわけなかったからで、普段からそんなわけないでしょ!

声もなく口を開けた私を見て、丈は声を立てて笑い出した。

「シャワー浴びてくる」

キスされそうになったのを避けて、バスルームに駆け込んだ。

前に何があろうとどうでもよくなっちゃうような、あんな嬉しそうな笑顔。どうしていいかわからなくなっちゃうよ、幸せすぎて。

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