ビルに願いを。

写真のままのストレートロングの彼女は、写真よりさすがに大人びて見えた。ホテルフロント階のラウンジで私たちに気づくと笑顔で駆け寄ってくる。

「ケイティ!」

そう叫ばれていきなり抱きしめられた。初対面のはずのこの人に。

「似てる?」

「わかんない!」

丈とのやり取りもなんだか変。変わってるのかな、このメイって子も。

「ケイティのママのメイです。会えて嬉しいわ、アン」

日本人なのかと思ったけれど、英語だ。丈と同じく日系でも、家庭で日本語を話す習慣がなく、あまり上手じゃないんだって。

最初の勢いから考えても、確かに私に敵対意識はないみたいに見える。でも丈とすごく親し気だよね、当たり前だけど。





そこに偶然メアリさんもやって来て紹介したので、にわかに賑やかになって来た。

「まあ!三角関係なの? 盛り上がってるのね」

「いやいや、この男は繊細すぎて私には無理です。タフな弁護士紹介してほしいなぁ」

「つまらないわよ、弁護士なんて。もっと危険な男を探しなさいよ、若いんだから」

と何かこの2人は意気投合している。メアリさんは最初の印象がいいところの奥様だったのを忘れるくらいに自由奔放。

女3人に囲まれても、丈は普段通り聞いてるのかいないのか、脚を組んで食後のコーヒーを飲んでいる。

「メイがヘリで上から東京見たいって言うんだけど、これから行ける?」

身体を私のほうに傾け、小さく日本語で聞かれた。ヘリ? ここのヘリポートから?

「またその顔。上から見るのも結構きれいだよ」

「仕方ないでしょ、庶民なんだから。いちいち驚くの」

「行く?」

「行かない。2人で行って来て」

予想外だったんだろう、目を丸くされた。高いところ、喜ぶと思ったよね。でもなんでか乗り気になれないの、ごめんなさい。
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