勿忘草~僕は君を忘れてしまった。それでも君は僕を愛してくれた~。
事故は本当に怖い・・・。
なぜ、事故が怖いのか。
それはそれを予期できないからだと僕は思う。
僕はその本当に怖い事故に遭い、左足を膝上から失い、大事な記憶をも失ってしまった・・・。
僕が今、覚えていることは本当に少ない。・・・と、僕は思う。と、言うのも僕は僕の記憶を失っているので今の僕が覚えていることが本当に少ないのかどうなのかさえも今の僕にはわからない。
記憶を失った僕がそれでもしぶとく自分のことで覚えていたのは自分の名前と自分の職業、そして、その職業に対するプライドだけだった。そして、他人のことで覚えていたのは自分を産み育ててくれた父と母の名前と顔だけだった。
その他の記憶も今、少しずつ取り戻してはきているけれど、それらは不透明なことが多く、難解なものも多い。そして、その反面、そのどれもが新鮮で面白い。
僕の毎日はいつも発見と驚きに満ち溢れていて何かと忙しい。
嗚呼、そう言えば僕の自己紹介がまだだったね。
僕の名前は斎藤 要(さいとう かなめ)。
今年31歳になる独身男。ちなみに彼女はいない。・・・と思う。
父さんも母さんも僕に彼女がいたなんて言わないからたぶん僕にはそんな特別なヒトはいなかったんだろうと僕は思っている。事故の際にスマホも壊れてしまったし、入院中に特別、僕と親しそうな女性も来なかった。
それにいたにしろ、いないにしろ、どちらにしても悲しい話だ。
もしも、僕にそんな特別なヒトがいたとして、そんな特別なヒトを忘れてしまっているのなら僕はこれ以上ないほどの極悪非道な薄情者だし、いなかったならいなかったで僕は特別、寂しい男なのだから・・・。
そして、僕の職業は小説家。
それなりに名は売れてた。・・・らしいが今の僕の記憶の中にはそんな事実はない。
けれど、僕のペンネームで書籍化されている本たちを見ればそれはどうやら本当のことのようだった。
東雲 要(しののめ かなめ)。
それが僕のペンネームでもう一人の僕の姿でもある。
僕は記憶を失っても文章は書けたし読めた。もちろん、話すこともできたし、その言葉の意味もわかった。
ただ、時々物の名前がわからないことがある。
確かに見たことはあるのにそれが何なのかわからない。確かにそれを知っているのにそれが何で何をする物でどんな名前なのかわからない・・・。
そんな時はいつだってもどかしい。けれど、それの正体と名前を知った時、またはそれの正体と名前を思い出した時はとても嬉しい。
記憶を失った僕は小さなことでも感動できる清い人間になったのだと自分ながらに思う。きっと今の僕は無知な子供たちと同等なほど純粋だ。もちろん、本当の子供たちには負けるけれど。
僕は事故に遭い、意識を取り戻すまでに2ヶ月近くの時間がかかった。これもまたらしい・・・と言わなければいけないのだけれど・・・。
僕は自分の左足を失った事実と記憶を失った事実を仕方なく受け入れ、動かない体を煩わしく思いつつ頭の中で文章を書き留め、その文章を頭の中で何度も読み返した。
左足を失っても記憶を失っても僕は小説家だった。
そして、それは記憶を失っても僕は僕だったと言うことだ。
僕には小説家としてのプライドがあり、誇りもあった。
記憶を失ってもそれだけは残っていたのだからそれは相当な執念、執着だと僕は思う。
嗚呼、また面白い題材が頭に浮かんだ。
早くノートに書き留めないと・・・。
そう思って立ち上がろうとして僕は転んだ。
嗚呼、そうか・・・。
僕は片足を失ったんだった・・・。
なぜ、事故が怖いのか。
それはそれを予期できないからだと僕は思う。
僕はその本当に怖い事故に遭い、左足を膝上から失い、大事な記憶をも失ってしまった・・・。
僕が今、覚えていることは本当に少ない。・・・と、僕は思う。と、言うのも僕は僕の記憶を失っているので今の僕が覚えていることが本当に少ないのかどうなのかさえも今の僕にはわからない。
記憶を失った僕がそれでもしぶとく自分のことで覚えていたのは自分の名前と自分の職業、そして、その職業に対するプライドだけだった。そして、他人のことで覚えていたのは自分を産み育ててくれた父と母の名前と顔だけだった。
その他の記憶も今、少しずつ取り戻してはきているけれど、それらは不透明なことが多く、難解なものも多い。そして、その反面、そのどれもが新鮮で面白い。
僕の毎日はいつも発見と驚きに満ち溢れていて何かと忙しい。
嗚呼、そう言えば僕の自己紹介がまだだったね。
僕の名前は斎藤 要(さいとう かなめ)。
今年31歳になる独身男。ちなみに彼女はいない。・・・と思う。
父さんも母さんも僕に彼女がいたなんて言わないからたぶん僕にはそんな特別なヒトはいなかったんだろうと僕は思っている。事故の際にスマホも壊れてしまったし、入院中に特別、僕と親しそうな女性も来なかった。
それにいたにしろ、いないにしろ、どちらにしても悲しい話だ。
もしも、僕にそんな特別なヒトがいたとして、そんな特別なヒトを忘れてしまっているのなら僕はこれ以上ないほどの極悪非道な薄情者だし、いなかったならいなかったで僕は特別、寂しい男なのだから・・・。
そして、僕の職業は小説家。
それなりに名は売れてた。・・・らしいが今の僕の記憶の中にはそんな事実はない。
けれど、僕のペンネームで書籍化されている本たちを見ればそれはどうやら本当のことのようだった。
東雲 要(しののめ かなめ)。
それが僕のペンネームでもう一人の僕の姿でもある。
僕は記憶を失っても文章は書けたし読めた。もちろん、話すこともできたし、その言葉の意味もわかった。
ただ、時々物の名前がわからないことがある。
確かに見たことはあるのにそれが何なのかわからない。確かにそれを知っているのにそれが何で何をする物でどんな名前なのかわからない・・・。
そんな時はいつだってもどかしい。けれど、それの正体と名前を知った時、またはそれの正体と名前を思い出した時はとても嬉しい。
記憶を失った僕は小さなことでも感動できる清い人間になったのだと自分ながらに思う。きっと今の僕は無知な子供たちと同等なほど純粋だ。もちろん、本当の子供たちには負けるけれど。
僕は事故に遭い、意識を取り戻すまでに2ヶ月近くの時間がかかった。これもまたらしい・・・と言わなければいけないのだけれど・・・。
僕は自分の左足を失った事実と記憶を失った事実を仕方なく受け入れ、動かない体を煩わしく思いつつ頭の中で文章を書き留め、その文章を頭の中で何度も読み返した。
左足を失っても記憶を失っても僕は小説家だった。
そして、それは記憶を失っても僕は僕だったと言うことだ。
僕には小説家としてのプライドがあり、誇りもあった。
記憶を失ってもそれだけは残っていたのだからそれは相当な執念、執着だと僕は思う。
嗚呼、また面白い題材が頭に浮かんだ。
早くノートに書き留めないと・・・。
そう思って立ち上がろうとして僕は転んだ。
嗚呼、そうか・・・。
僕は片足を失ったんだった・・・。