勿忘草~僕は君を忘れてしまった。それでも君は僕を愛してくれた~。
「もしも・・・」
「・・・もしも?」
彩さんが小さな声で呟いた。彩さんのその呟き声は本当に小さくて聞き逃してしまいそうなほどだった。けれど、僕はその小さな呟き声を聞き逃さず、彩さんが発した『もしも』の言葉のあとに続く言葉をそれとなく詰め寄った。
それに対して彩さんは苦い笑みを滲ました。しまった・・・と言うように。
「もしも・・・もしも本当に来世があるのなら私は要さんのことを忘れたくない」
「・・・え?」
僕は彩さんの言葉に瞬いた。
僕のことを・・・忘れたくない?
どうして・・・僕のことを?
そんな疑問と同時に僕の心臓はドクンと大きく脈打った。まるで恋をしているみたいだと心の中で呟いてみる。
これが・・・恋・・・なのだろうか?
僕は心の中で再び呟き、小首を傾げ、腕を組んだ。
「要さんはそのくらい素敵なヒトですから」
彩さんはそう言うと照れくさそうに笑って再びゆっくりと歩きだした。
彩さんの歩みと共に流れて行く風景はゆっくりと移り変わる。
そして、僕自身の心もまた移り変わろうとしていた。
ゆっくりと・・・歩むようにゆっくりと・・・。
そのゆっくりとしたペースがどこかむず痒く、焦れったい。
それ故にドキドキもさせられる。
そんなことを思う僕はなかなかの変態でマゾなのかも知れない。
もちろん、そんな自覚は他にはないけれど・・・。
「僕も・・・」
僕は呟いた。
車椅子を押してくれている彩さんが『ん?』と声を漏らす。
「僕も彩さんと同じ気持ちです。本当に来世があるのなら僕も彩さんのことを忘れたくない。そのくらい彩さんは素敵なヒトだから」
僕は鸚鵡返しのような言葉を口にし、微笑んだ。
そんな僕を彩さんはまじまじと見つめるとうっすらと両目に涙を滲ませた。
その涙の理由を僕は未だに理解できていないし、その真実の理由も知らない・・・。
そして、その涙の理由と真実を僕はこれからも知ることは叶わず、もやもやした毎日を送ることとなるのだろう・・・。
本当に人生は後悔と失敗の連続だ。
だからこそ面白い。だからこそもどかしい・・・。
僕は本当にそう思う・・・。
あの時、僕がもっとちゃんと彩さんと向き合っていれば・・・。
未だにそんなことを僕は心の中で思う・・・。
そして、それはこれからもずっとだろう・・・。
嗚呼・・・本当にもどかしい・・・。