勿忘草~僕は君を忘れてしまった。それでも君は僕を愛してくれた~。
「まさか要に俺の存在を忘れられるとはな・・・。思ってもみなかったよ」
涼哉は意地悪くそう言うとニコリと笑った。それにつられて僕もニコリと笑ってしまう。けれど、僕のその心の内は決して穏やかなものではなかった・・・。
「僕もまさかだよ。・・・まさか唯一無二の親友の存在を忘れてしまっていたなんて・・・本当にゾッとする」
僕はそう言って大きな溜め息を吐き出した。
本当にまさかだし、本当にゾッとすることだ・・・。
大切な人の存在を忘れる・・・。
忘れてしまっていることさえも気づかずに・・・。
嗚呼・・・本当に怖いことだ・・・。
人の存在を忘れる・・・。
それはとても罪深いことなのだと僕は今日改めて再認識させられた・・・。
涼哉のことを・・・唯一無二の親友である人のことを思い出せれて本当によかった・・・。
「・・・要」
「うん?」
涼哉のその呼び掛けに僕は少し気の抜けた返事を返してしまっていた。きっとその気の抜けた返事の理由は唯一無二の親友である涼哉の存在を思い出せれた安堵感から来たものだろう。
けれど、僕はそれが何だか妙に恥ずかしくて意味もなく咳払いをしてみた。
「何か・・・何か他に思い出したこと・・・ないか?」
「・・・え?」
涼哉の何かを試すような・・・何か強く望むようなその口調に僕は戸惑った。
何か・・・。
涼哉の言うその『何か』とは一体、何のことなのだろうか?
僕は心の内で小首を傾げてみた。
「その様子から察するに・・・ないんだな。他に思い出したこと・・・」
そう呟くように言った涼哉は本当に残念そうだった。
「・・・ごめん」
僕は無意識のうちに謝っていた。
大切なことを忘れてしまってごめん・・・。
けれど、僕だって忘れたくて忘れたわけじゃない。
記憶は大事なものだ。失いたくはなかった・・・。そう。左足以上に・・・。
「俺はいい。けれど・・・」
涼哉はそこで言葉を切ると苦く微笑み、小さな声で『何でもない』と呟いた。
『何でもない』わけない。そんな嘘、僕には通じない。けれど、僕は・・・。
「わかった」
そう言ってゆるく微笑んだ・・・。
今、思い返すと『何でもないわけないだろう?』と言うべきだった・・・。
僕は今、後悔している・・・。
あの時、僕がちゃんとしていればこんな辛い思いを僕はしなくてすんだのかもしれない。
後悔、先に立たずとはまさにこのことだ。
今さら何を思っても遅い。けれど、思わずにはいられない。
人は弱い。本当に弱い・・・。
だからこそ・・・面白い。