勿忘草～僕は君を忘れてしまった。それでも君は僕を愛してくれた～。

ゴトリと言う重たい音と共に僕は冷たいフローリングの上に転げ落ちた。落ちた際に打った箇所には鈍い痛みがじんわりと広がり、僕は今、生きているのだと実感した。
その重たい音を聞き取った彩さんがすぐに『要さん！？』と悲鳴のような声をキッチンから上げた。
「あ、大丈夫、大丈夫。ちょっと転んだだけだから」
僕はそう言いながらなんとか上体を起こし、駆け寄ってきた彩さんに微笑んだ。僕に駆け寄ってきてくれた彩さんは泣きそうな顔をしていた。それに僕は苦く微笑むことしかできなかった。そんな自分が酷くもどかしい・・・。
「ケガはありません？本当に大丈夫ですか？」
彩さんは僕の背に軽く手を置き、そう心配してくれた。それに僕は『うん』と頷いてまた微笑んだ。僕の背に軽く置かれた彩さんの手は本当に暖かかった。
彩さんは僕をじっと見つめたあと本当に安心したと言うような溜め息を吐き出し、優しく微笑んだ。
なぜ、彩さんはこんな僕のことをこんなにも心配して支えてくれるのだろう？
ふと、そんなことを思った。・・・本当はいつも思っていることだけれど。
「本当にもうっ！気をつけてくださいよ？」
彩さんは少しむくれてそう言うと僕の体をその細く小さな体で支え、僕の定位置であり、僕の足でもある車椅子へと僕を導いてくれた。
「ごめんね。・・・ありがとう」
僕はそう言って苦笑した。そんな僕を見て彩さんはニコリと微笑んでくれた。彩さんのその微笑みがなぜか僕を落ち着かなくさせ、何かがざわざわと心の中で渦巻いた。
それは今日に限ったことではなかったけれど、それに慣れる兆候は今のところない。僕は何か大切なことを忘れている・・・。僕は心の中で呟いた。