勿忘草~僕は君を忘れてしまった。それでも君は僕を愛してくれた~。
僕は白い部屋にいた。
白一色ではなかったけれど、目を覚ましてすぐに『白いな』って思ったのを今も覚えている。
その白い部屋は病院の個人病室だった。
目を覚ました僕はすぐにそこがどんな場所かもわかっていなかった。それにそんなことよりも体を飲み込むような倦怠感の方がよっぽど僕は気になった。
僕は一体、どうしたのだろう?
僕はぼんやりとしている頭で必死に考えた。
僕の名前は斎藤 要。齢、31歳。職業は小説家。小説家としての名は東雲 要。父の名は斎藤 文夫(さいとう ふみお)。母の名は斎藤 和子(さいとう かずこ)。
・・・・・おかしいな。
他のことが思い出せない・・・。
まるで濃い霧がかかったかのような重たい頭で僕は必死に考えた。
僕はどうしたのか・・・と・・・。
「・・・要さん?」
そんな濃い霧を晴らしたのははじめて聞くはずの声なのにどこか懐かしさを感じさせる女性のものだった。
温かく懐かしい声・・・。
けれど、僕の頭の中にはそんな声の人は存在しなかった。
僕はゆっくりとその声のした方へと目を向けた。
そこには美人と言うよりは可愛らしいと言った方がいい小さな女性が一人、泣きそうな顔で立っていた。
嗚呼、懐かしい・・・。
そう感じ、そう思うのに僕はその可愛らしい小さな女性を知らなかった。
「・・・君は?」
僕のその問いにその可愛らしい小さな女性は元から大きな目を更に大きく見開いた。
そして、そのあとすぐにその可愛らしい小さな女性は優しく微笑んでくれた。
その優しい微笑みに僕の胸の奥は何かにぎゅっと締め付けられた。
苦しい・・・。
そう思う以上にそれを愛しいと僕は感じた。