ただ、守りたい命だったから
手術が終わり。

出血はかなりひどかったが、一命をとりとめた慈季。

病室に入り、慈季を見つめている私と櫂琉。

ずっと、私と櫂琉は一言もしゃべらなかった。

コンコン。

ドアを叩く音がして。

誰かなんて見なくてもわかってる。

開いたドアの方を睨む櫂琉の顔が横目に見える。

そして。

冒頭の罵声へと繋がる。

入ってこようとしたのは、薺とベビーシッターときぃちゃん。

「潤っ、ごめっ…。」

『私じゃないわっ!慈季にでしょう!一番に虐待した女を庇い、瀕死にさらされた慈季を最初に心配しなかった!あんなに血が流れていたのに!死ぬところだったのよっ?!やっぱり私が勝手に産んだから、自分の子でも大事にできないのっ?』

「潤っ!違う。…違うんだ。」

大泣きしながら怒鳴り散らす私に、薺も泣きそうになっている。

『何が違うのよっ!事実よ!私と櫂琉とは真逆だった自分に気がついてないの?もう顔も見たくない。出ていけ!きぃちゃん、悪いけど追い出してくれる?』

「悪いけど今回は情けないとかの問題じゃないよ。薺くん、父親じゃないよ。」

櫂琉の真剣な眼差しに、きぃちゃんは二人を連れて出ていった。

櫂琉がぎゅっと抱きしめてくれる。

「また、三人で暮らそう。充分楽しかっただろ。」

『うん…。もう薺を信用できない。』



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