ただ、守りたい命だったから
玄関の鍵を開ける音がして、すぐに入ってくる人影。

「来てたのか?」

『うん、おかえり。でも、もう帰るから。』

立ち上がり、彼の隣を通りながら告げる。

『心変わりしたのなら、私と別れてから次行きなさいよ。』

「どういうことだ?」

グイッと力強く腕を引っ張られて、少し痛かったけど顔には出さない。

『そのままよ。あなたならわかるでしょ。』

「潤(うる)、何言ってる?」

久しぶりに名前呼ばれた気がするな。

『後輩の女の子と行った食事のあと、飲みにも誘ったんだって?また約束もしたらしいじゃない。』

「はっ?食事?この前の接待がなくなったときのこと、まだ言ってんのか?しかも、飲み足りないって言ってきたから、しょうがなくバーで一杯だけ付き合っただけだぞ。仕事のことで相談があるって言うから。次なんて約束してないし。」

普段無口な人でも、言い訳になると饒舌になるのね。

こんなに話すの初めて聞いたわ。

『そう。でも、その接待じたいがそもそもなかったのよね?』

「どういう意味だ?」

『知ってるのよ。そんな接待元々なかったって。あなたの演技力に騙されたわ。あの子がいいなら、私は邪魔だって言ってよ!私とは最近まともにご飯行くことすら、なかったくせに。』
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