ただ、守りたい命だったから
「接待がなかったって、何言ってんだ?オレがウソついて行ったとでも?」

『だって、事実はそうでしょ!』

考えこむような顔になった薺(なずな)。

「…仮に接待がなかったとして、お前はオレと簡単に別れられんのか?」

『…見てみぬフリしろって?ウソつかれても、どんどん仲良くなっていく二人を見ても、黙ってろって?!私のことは何ひとつかまってくれないのに。あとでこっぴどくフラレるよりは、はっきり言ってくれた方がマシよ。』

最後は涙声だったけど、涙は流さなかった。

小さな私のなけなしのプライドだった。

そのまま、薺の手をふりほどき、荷物をもって出ていった。

下におりると、そのまま呼んでいたタクシーに乗り、泣きながら帰った。

そのあと、着信もメールもあったけれど、気力がなくて見る気にもならなかった。

次の日。

運良く薺は3週間の出張だった。

最後に送られてきたメールを1つだけ開いてみる。

〝出張から帰ってきたら、じっくり話そう〟

別れ話の続きを?

それともこのままの関係で、一緒に居続けるって?

もう、そんなこと聞ける気力もないわ。

で、それから別れて10日後に妊娠発覚。

不思議と自然に産もうと思えた。

ただ、責任を感じて一緒にいてもらっても、お互いツライだけだし、妊娠は隠して黙って仕事もやめようと決めた。

それから辞表を出して、1ヶ月でうちは辞めれるんだけれど、全く使ってない2年分の有給消化のため、あと2週間ちょっとで辞めれることになった。

だから、実質薺とかぶるのは3日程。

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