世界にひとつのどこにもない物語
「有希子ちゃんのところの…?」

「ああ、そうや」

「1丁目の酒屋さんのところのヤシチを怖がってた…?」

「ああ、そうや…って、何でそんないらんことを覚えとんねん。

思い出してとは言うたけど、そこまで思い出せとは言うてへんで」

ヤシチと言うのは、まやの実家の近所で飼われていた大型犬の名前だ。

全体が黒い毛並みでおおわれていて、胸に白い三日月のような模様があるのが特徴的な犬だった。

それを狼谷はクマみたいだと言って怖がっていたのだ。

「いつも1番前に並ばされてたよね?」

「んなことも覚えとったんかい…」

狼谷は呆れたと言うように息を吐いた。

「中学高校はバスケットボール部に所属しとったんや。

案外伸びるもんなんやな。

気ィついたら1番後ろになっとったわ」

狼谷はハハッとおかしそうに笑った。
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