世界にひとつのどこにもない物語
荒川有希子(アラカワユキコ)――まやが助けた妊婦の女性なのだが――とは小学3年生の時に一緒のクラスになり、出席番号が近かったことから仲良くなった。

彼女の3つ下の弟が狼谷展義こと荒川展義(アラカワノブヨシ)だった。

自分の記憶の中にある狼谷はまだ幼いうえに背が低くて、背の順ではいつも1番前に並ばされていた。

そんな彼をまやは“ノブちゃん”と呼んで、弟のようにかわいがっていた。

荒川姉弟と一緒に日が暮れるまで遊んだり、夏休みなどの長い休みの時はお互いの家に行って寝泊りをしていた。

そんな日々を過ごしていたある日のことだった。

まやが小学4年生の時、荒川家で火事が起こったのだ。

その火事に巻き込まれて両親が亡くなったため、2人は東京に住んでいる親戚に引き取られたのだった。

「母親の妹――叔母さんになるんやけど、彼女が『狼谷財閥』の社長と結婚してたんや。

せやから、名字が“荒川”から“狼谷”になったっちゅー訳や」

狼谷が言った。
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