世界にひとつのどこにもない物語
そのすねた顔は、幼い頃と変わっていなかった。

「元気にしとるよ。

今度、出産祝いも兼ねて姉ちゃんのところに遊びに行ったってや。

姉ちゃん、まやに会いたいって言うてたから泣いて喜ぶと思うで」

「うん、そうするわ」

まやが返事をしたのを確認すると、
「なあ、覚えとるか?」

狼谷が聞いてきた。

「えっ、何を?」

まだ忘れていることがあっただろうか?

そう思っていたら、
「わい、言うたやないか。

お別れの時、“必ず迎えに行く”ってそう言うたやないか」

狼谷が言った。

「迎えに…あっ」

思い出した、いつも夢に出てきたあの言葉である。

――必ず迎えに行くから

最近はその夢を見なかったからと言うこともあり、すっかり忘れてしまっていた。
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