世界にひとつのどこにもない物語

「し、知らないんですか！？」

倉坂が信じられないと言った顔でまやを見つめた。

「知らないから聞いているんです」

まやは言い返した。

「『狼谷財閥』って、今や日本を代表する大企業ですよ！？

飲食業やホテル業を中心に展開しているそうなんです、えーっと…」

倉坂は隣に置いていたカバンをガサゴソとさせた後、
「あっ、ありました！」

テーブルのうえに何かを置いた。

経済誌だった。

その表紙を飾っているのは、先ほどプロポーズをしてきた狼谷だった。

「へえ…」

まやは呟いた。

精悍な顔立ちをしている狼谷が表紙を飾っているせいなのか、ただの経済誌のそれがおしゃれなファッション雑誌のように見えた。