世界にひとつのどこにもない物語
「そんな遠慮せんでもええやないの。

家の前まで送ったるがな」

狼谷が言った。

「遠慮なんてしていません」

(逆に言うわ、何でお前に自宅を教えなあかん理由があるんや!)

まやは心の中で叫んだ。

「しゃーないな、9丁目辺りから順に回ることにするわ」

狼谷は呆れたように言うと、車を発車させた。

「きゅ、9丁目からですか?」

驚いたと言うように聞き返したまやに、
「しゃーないやん、まやが何丁目か教えてくれへんもん。

しらみ潰しとして最後から順に回るしか他ないやん」

狼谷はハンドルを動かしている。

「まあ、その方が都合ええけどな。

まやと長く過ごせると考えた方がしらみ潰しも悪ないわ」

「3丁目です」

(ジョーダンじゃないわ、ボケ!)

心の中の言葉を叫ぶ代わりに、狼谷に教えた。
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