世界にひとつのどこにもない物語
「まや、泣いとったで。

自分のことを嫌いになったのか、自分に悪いところがあったのかって言うて、子供のようにワンワン泣いとったで」

嘉門は顔をあげようとしない。

「人と話す時は相手の目ェを見ろって、子供の時言われんかったか?」

狼谷がそう言ったら、嘉門はうつむいていた顔をあげた。

彼は悲しそうな顔で自分のことを見ていた。

「おのれの身勝手のせいで、まやがどんだけ悲しんどったかわかっとるんか?

おのれのせいでまやは逃げるように故郷から離れて、友達も恋人も作らんと1人で生きてきたんやぞ?

まやの心の傷の深さ、おのれは知っとるんか?」

狼谷は言った。

嘉門は悲しそうな顔で、ゆっくりと唇を開いた。

「――まやに許してもらおうなんて、思てません…。

でも…でも、まやに謝りたいんです…」

呟くように唇から出てきた言葉に、
「謝りたいって…謝って済むんやったら、警察なんかいらんで?」

狼谷は言い返した。
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