世界にひとつのどこにもない物語
「あの…ありがとうございました」

まやは狼谷にお礼を言った。

「礼はええわ」

狼谷はそう言うと、まやにハンカチを差し出した。

まやは彼の手からそれを受け取ると、涙で濡れた顔をふいた。

「まや」

嘉門に名前を呼ばれて、まやは彼の方に視線を向けた。

「幸せになってな」

まやと目があったその瞬間、嘉門が言った。

「うん」

まやは首を縦に振って返事をした。

「嘉門くんも元気でな」

そう言ったまやに、嘉門は笑った。

10年前と変わっていないその笑顔に、まやは笑顔で返した。

「ほな、さいなら」

嘉門はそう言うと、椅子から腰をあげた。

「さいなら」

まやは返事をすると、立ち去って行く嘉門の背中を見送った。
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