コグライ
数秒の沈黙、そしてごくり、と彼女は何かを呑み込んだ。
「サコはねー……なんでかな。なんで殺しちゃったのかな。あんなに、可愛かったのに」
「わからないんですか」
「なんて言えばいいのかわからないの。……何をしてもサコは私を見ない、私に泣きつこうともしない……それが、悲しかった」
無表情で、でも体を震わせながら言葉を紡いでいく彼女は、やっぱり兄を殺した人間だと思えないくらい綺麗だった。
私にとって、彼女は憧れだった。兄はよくこんな女性と付き合えたな、と考えたものだった。私にも優しくて、二人でショッピングに出かけたこともある。とても、優しい人。
二人の赤ちゃんは抱えきれない愛情を受けて育つのだろう、と思い込んでいたのに。
「……サコにもコウイチにも、私は必要とされていなかったのね」
かける言葉が見つからなかった。殺人を犯してしまった以上、彼女は永遠に犯罪者になる。彼女は自らすすんで犯罪者になったのか。
多分、違う。きっと、想像もできないくらい堪え難い衝動に駆られたのだろう。
「サコは、私が生んだ子なのに……」
刑務官の男性は、彼女の隣で何か――恐らく私と彼女の会話の内容――を記録している。
これ以上、私は彼女に事件のことを尋ねてもいいのだろうか。彼女は、大丈夫だろうか。
三つ目の問い。
答えを聞いたあとは、すぐに帰ろう。
そう決意し、私は彼女から目を逸らして言った。