コグライ
「……最後に一つだけ。サコちゃんの右腕は、どこにあるんですか」
刑務官の彼は顔を上げ、鋭く私を見た。なにか訊いてはいけないことを訊いてしまったのか、と思ったが、彼は何も言わずに目を泳がせた。
なに。
赤ちゃんの右腕は、どうなったの?
「……サコの右腕?」
彼女は不思議そうに首を傾げ、髪を揺らした。
「……知らないわ。サコの右腕なんて」
「え?じゃあ、やったのはユウカさんじゃないってことですか?」
かっと全身が熱くなり、自身の心臓が強く律動しているのを感じた。
どういうこと?つまり、サコちゃんの右腕が無くなったことに、ユウカさんは関与していないの?じゃあ、犯人はもう一人いる?
「じゃあ、また別に犯人がいるってことじゃないんですか?なんでユウカさん、そのことを警察に言わないで……」
「あと一分ですよ」
刑務官が冷たい声で言い、声に出さず私に『早く帰りなさい』と告げた。
どうして?
彼女がこんなことを言っているのに。
サコちゃんの右腕は、どこに?
ごくん、と唾を呑み下し、彼女は優雅な動作で微笑んだ。
「……あぁ、サコは、可愛いのにね」
耳元で音が反響する。
「サコちゃんの、右腕はどこに……」
「右腕は知らないけど、サコは知ってるよ」
それから黙り込み、歯を動かし続ける。
「……もう時間がないから、また、会いに来てもいいですか」
でも彼女は返事をせず、濁った目で虚空を見つめている。その奇妙な癖がどうも目について、ふと、疑問を口にした。
「ユウカさんはさっきから、何をしているんですか?」
ごくん。
「……見られてたの?恥ずかしいなぁ」