そのイケメン、オタクですから!
笑顔はそのままで、桜井先輩は初めの質問に戻った。
「で、悠斗に何て言うの?」
「断ろうと思ってます。私は先輩に言えないことがあるし、待っててもらうわけにはいかないから」

ふふっと笑って、桜井先輩は言う。
「良かった。先に捕まえといて。七瀬ちゃんならそう言うかと思ったんだよね。七瀬ちゃんは、悠斗の事好きだよね?」

質問口調なのに当然の事を言うみたいな桜井先輩に、つい「はい」と答えてしまって内心慌てる。

よっちゃんにすら言ったことがなかった本音なのに、桜井先輩って何者?
バイトの事をばらされなかった安心感もあって、つい心が緩んじゃった。

「いや、君ホント素直で面白いね。俺には言えるんだ。じゃあ悠斗にも言ってあげなよ」
「でも……」

急に桜井先輩は真面目な顔になって私を真っ直ぐ見つめる。
緊張はするけどドキドキはしない。

こんな場面なのに、やっぱり及川先輩に対する気持ちとは違う、と確信する自分がいる。

「君にはこういう言葉が必要かな。悠斗にちゃんと気持ち言わないんだったら、先生にバイトの事ばらしちゃうよ」
「えっ!?」

天使だと思ったのに……やっぱり堕天使……いや、悪魔かも。

「全部本当の事言っちゃいなよ。好きだってことも、秘密があることも。誰だって恋人に言えないことぐらいあるんだから」
「でも……」
「君には選択の余地はないの。本当にばらしちゃうよ。じゃあね」

話は終わり、とばかりにドアを開けて桜井先輩は出て行こうとする。
「先輩っ、待ってくださいっ」

追いかけた私は思いっきり先輩の背中にぶつかった。
鼻の頭のファンデーションが制服についちゃった。
桜井先輩、ごめんなさい。

一応タオルでごしごししてみる。
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