そのイケメン、オタクですから!
「私……及川先輩の事が好きです。だけど、先輩に言えないことがあって。もう少し時間をもらったら言えると思うんです。……こんなのずるいですよね、でも、私の事信じて欲しい……」

私は本当にずるい。
この告白を桜井先輩のせいにして、及川先輩を苦しめる。
自分の都合だけを押し付けて、それでも嫌いにならないでと言う。

中途半端な態度が一番いけないってわかってるのに。
この距離を、先輩を失いたくない。

「……わかった」
メールと同じ4文字の言葉。
声には抑揚がなくて、先輩の心は伺えない。

怖くて顔を上げられない私の背中が温かさに包まれた。
制服じゃわからないけど、意外と筋肉質な胸。

初めてセノジュンレッドの素顔を見た、あの日と同じ。
「七瀬が信じて欲しいって言うなら、俺は信じる。俺の事好きだって言ってくれるなら、それでいい」

耳元で囁かれる低い声は心地よくて涙が出そう。
大切なことは何も言えない私を、この人は信じるって言ってくれる。

「せんぱ……んっ……」
顔を上げた拍子に唇が重なった。

な、に……?
触れるだけのキスだったけれど頭の中は真っ白で、真冬だと思えないくらいに頬が熱い。

「ごめっ、何か……可愛くて。きゅ、急だったよな……わりぃ」

目を逸らして言い訳する姿はゆうぴょんご主人様そのもので、生徒会での自信満々な先輩とは違う。

こんな顔を見られるのは私だけ……?
目の前の問題は全部横に置いちゃって、つい心がきゅんとなる。
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