そのイケメン、オタクですから!
…………!
け、健くん……。

よっちゃんと私、思わず固まった。

口の中の豆腐ステーキの味が急にしなくなった。

及川先輩と健くんを会わせる前に、よっちゃんと二人で健くんに何度も釘を刺した。

及川先輩をオタク扱いしない事。
私がナナだって事は秘密だって事。

それなのに無邪気な顔してこんな事を言っちゃうのが、健くんなんだよね……。

「そ、それってアニメでしょ? 私あんまり知らないし他の映画の方がいいんじゃない?」
よっちゃんが慌てて口を開く。そして健くんの足を思いっきり踏んだらしい。

「いてっ、何すんだよ!」
「足が滑ったのよ! 馬鹿!」

いつもなら微笑ましい二人のやりとりだけど、今はそれどころじゃない。
「有名なファンタジー映画やってなかったけ? あっちは? ねぇ、先輩」

及川先輩に目を向けたら何だか難しそうな顔をしてたけど、私の声に反応して「あ、ああ。俺はどっちでもいいけど」と返事した。

明らかに不自然な態度だったのに、珍しく先輩がぼんやりしていてよかった。

それにしても健くんってば、ひどいじゃない。
ちらりと目を向けると、よっちゃんが頭からヘビでも出そうな目力で健くんを睨んでた。

よっちゃん、ちょっと怖いよ……。

健くんは後でよっちゃんからたっぷりお説教されるだろうから、私は見逃してあげよう。

「それよりまずはテストでしょ!」
よっちゃんに一喝されてこの話は終わって、私と及川先輩はテストの話を始めた。

数学への苦手意識は随分和らいだけど、それでも授業についていけてるとまでは言えないから、やっぱり先輩の手を煩わせちゃう。

「俺はもう受験勉強してるから、期末テストの為の勉強なんて必要ねーの」って先輩は言ってくれるけど申し訳ないよね。

そう言ったら今度は「生徒会辞めたくなかったら大人しく言うこと聞いてろ」って言われちゃった。

言葉は厳しいけど、私のために言ってくれてるってわかってる。

本当は優しいんだ。
だから私も疲れてても、しんどくても頑張っちゃう。
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