そのイケメン、オタクですから!
まさか先輩のお家とか?
それはまだ早いでしょ。

付き合い始めたばっかりだし、キ、キスだって一回しかしてないし。
両親にご挨拶とか。
そういうのはもうちょっと可愛い格好で……。

一人妄想を膨らませる私は、先輩に連れられて電車に乗り込む。
もともとそんなに喋る方じゃないけど、今日の先輩は無口だ。

やっぱり誰かに紹介されるとか。
手土産とかいらないのかな。

そっと手を握られて降りた駅は、見慣れた光景が広がっていた。

だけど景色よりも、私の神経は左手に集中する。
だって手を繋ぐのも初めてなんだもん。

及川先輩と一緒にいるとドキドキすることばかりで、心臓がまた忙しくなる。

「なぁ、留愛、俺の家族」
妄想の中でタキシードを身に着けてバラの花束を抱える先輩。

「いやぁ、可愛いお嬢さんだねぇ」
先輩と同じ顔にひげを生やしたおじさまが目じりを下げる。

「本当、素敵なお嫁さんが来てくれたわねぇ」
何故か桜井先輩そっくりな顔をしたお母さんが、クッキーの入ったバスケットを抱えて玄関に出てきた。


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