そのイケメン、オタクですから!

「ここ……なんだけど」
先輩の声で現実に戻る。

先輩の家にしては、ただのビルにしか見えない。
しかもここ、何だかよく知っているような……。

って、ここは!
白地にピンクの文字で「めいどいんふぁいと」と記された看板は、よく見慣れたものだった。

「せせせ、先輩、ここって?!」
思いっきり後ずさった私の手を先輩が強く握って、真っ直ぐに見つめてきた。

「悩んだけど、お前には言っておきたい。前に俺に聞いたよな。アニメが好きかって。
そうなんだ。オタクだとか引かれるかも知れないけど、昔から好きで。健が言ってたメイド服と散弾銃は特に。実はツレとよくここに通ってる。でもメイドを恋愛対象として見てるわけじゃなくて、俺が好きなのはお前だけだから……」

一番最後の言葉は踊りだしたくなるくらい嬉しいのに、それ以上に私の頭の中はパニックだ。

何か返事をしなくちゃいけないと思うのに、口からは息しか出てこない。
及川先輩は悲しそうに目を伏せた。
「やっぱ引くよな……」

違う!
引いてるんじゃなくて!
先輩がアニメ好きだなんて知ってたし!

「俺の事、嫌になったか?」
気まずそうに口をへの字にする先輩。

私は頭をぶんぶんと横に振った。
先輩の顔が明るくなって「とりあえず来てくれ」と手を引っ張られる。

無理無理無理!
助けてーーー!

心の中で叫ぶけど誰も助けてなんてくれない。

セノジュンレッドに抱き止められた階段を、及川先輩と留愛で上る。

今自分が誰なのかわからなくなる。

私、どうなっちゃうのーーー?
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