そのイケメン、オタクですから!
前を歩く背中は速足で振り向きもしないけれど、私がついて行くことを確信してる。
ナナって聞こえたのは……気のせいじゃなかったんだ。

生徒会長選挙前に斎藤先輩が使っていた部屋に後姿が消えた。
ドアは開いたままだったから、私もためらいながら後ろに続く。

後ろに回った先輩が、部屋の鍵を閉める音がして、私はびくりと身体を震わせた。

「そんなに怯えなくても手を出す気はないから。それに及川が来たら困るのは、お前の方だろ?」
斎藤先輩は机の上に伏せられた写真を、トランプでもめくるかのように拾って私の前に突き出した。

黒いワンピースに、フリフリの白いエプロン。
ツインテールの……ナナ……私。

続けてもう一枚。
めいどいんふぁいとの裏口の扉を開いてる……制服姿の、留愛……私。

背中に氷が当てられたみたいに冷たい。
震える掌を、ぎゅうっと握りしめる。

「同一人物には思えないよな。あの様子だと、及川も知らないんだろ? 学校にばれて退学。それで知ったら、ショックだろうなぁ、彼女の嘘」
「どうして……?」

あまりにも楽しそうな顔に戸惑って、私の口から出てきたのはこんな言葉だけだった。
黙ってて下さいって言いたかったのに。

斎藤先輩は歓喜に満ちた表情で近づいてくる。
「大っ嫌いなんだ。アイツ。人気も生徒会長も、成績1位も、何でも持ってる。アイツの一番大事なもの奪って、悔しそうな顔見てみたかったんだ。公約が実現できなかった上に大好きな彼女が嘘つき、そして退学。楽しみだなぁ」

及川先輩への妬み、嫉妬。
暗い感情が流れ込んできて苦しい。
怖い。
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