そのイケメン、オタクですから!
「退学届」を握って、職員室の扉をくぐった。
担任の先生に渡してすぐに帰るつもりだったけど、校長室まで連れて来られちゃった。

大げさな話にはしたくなかったんだけど。

「どうした七瀬、最近成績も上がってきたのに」
担任が心配そうに顔を覗き込む。校長先生まで渋い顔でこっちを見ている。

「家庭の事情で……」
それ以外言えることなんてない。
バイトの事は封印したまま辞めるんだから。

「ご両親とはきちんと話しているのか?」
「うち母親しかいなくて、でも母の同意は得てます」
「……辞めた後の事は考えてるのか?」

先生はやたらと突っ込んでくる。
ママの同意は得たなんて嘘だし、やめた後の事なんてまだ考えてないし。

もう、放っといてくれたらいいのに……。

それにしても職員室の方が騒がしい。
「何だかうるさいな」
担任が扉を開いたら、誰かが飛び込んできた。
「校長先生、お話が。これ見て下さい!」

…………。

「先輩、何やってるんですか?」
焦った顔で駆け込んできたのは及川先輩だった。

ネクタイは緩んで、珍しく髪が乱れてる。

先輩は机の上の「退学届」を見ると目を吊り上げて、思いっきり破いた後、私に怒鳴った。

「俺を信じろって言っただろ! 馬鹿!」

馬鹿って何よ!?
私だって一生懸命考えてここまで来たんだから。

「馬鹿じゃない!」
思わず先生たちのことも忘れて先輩を睨む。

「ほんっとお前は、無鉄砲で自分勝手でナナそっくりだ!」

「自分勝手って!」

「で、この名簿は何かな?」
にらみ合っている私達の間に落ち着いた校長先生の声が落ちる。



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