そのイケメン、オタクですから!
「行こっか」
職員室のドアに二人で向き直る。
灰色のドアは無機質で、この先の不安を煽る。
全員退学なんてことはないと思うけど、及川先輩が生徒会長を降ろされることはあるかもしれない。
私のせいで。
先輩がずっとやりたいと思っていたことを私が奪っちゃうかも知れないんだ。
先輩はそれでも私を想ってくれるのかな。
優しい人だから苦しむのかもしれない。
……不安が膨らむ。
「お前はすぐそんな顔する。ナナみたいに能天気に笑ってろよ。それが一番似合うから」
皮肉っぽく言われて背中を押された。
「俺はお前が隣にいれば大丈夫だから」
そう言って、及川先輩が扉を開いた。
「おう、及川……七瀬は呼んでないぞ」
先輩の担任の先生が怪訝な顔をする。
「私も一緒に話を聞いちゃダメですか?」
尋ねるとうーんと唸って「まぁいいか。七瀬も生徒会だもんな」と校長室の前に案内してくれた。
職員室の最奥が校長室。
木の扉で隔たれている空間の様子は伺い知れない。
校長先生はシルバーグレーで紳士的雰囲気のある人だけど、進学率が最優先だと考えてこの学校に赴任してきたと聞いたことがある。
コンコンッ
先生が扉をノックした。
「生徒会長の及川が来てます」
「入りなさい」
木の軋む音がして扉が開くと、先生は軽く頭を下げて扉を閉め、職員室に戻って行った。