そのイケメン、オタクですから!
……?
「どういう、ことですか……?」

わけがわからない。
一体何なの?
こんな時に落ち着いていられる及川先輩はやっぱり只者じゃない。

校長先生は一枚の紙を取り出して、低い声で読み上げた。
「生徒会から提案のあったアルバイト禁止の校則の改定案について……検討の結果可決とする」

「……え?」
「ありがとうございます」
完全に硬直した私の横で、及川先輩が深々と頭を下げた。

「明日には掲示板に張り出されるが、アルバイトには既定の書類への保護者のサイン、アルバイト先のサインが必要となる。本校で最も優先されるのは学業であるから、期末試験の成績順位が前回、前々回より20番以上下がればすぐにアルバイトは停止させる。……七瀬君、君の同意はお母さんから頂いたから、速やかにアルバイト先からの書類の提出をするように」

「あ……はい」
ママ、そういうことなら言ってくれればいいのに!

何だったのこの緊張はぁ……。
力が抜けて私は床にへたり込んだ。

「生徒会長が校則を破っていた件に関しての処分はないのでしょうか?」
及川先輩はあくまでも冷静だ。

「ははは。ここだけの話だがね、一部は君を生徒会長から解任させる意見が上がっていたんだ。そうしたらこんなものが届いてね。」

校長先生がポンと机に投げたものは、生徒たちの署名だった。
表紙には「2年3組及川悠斗の生徒会長続行のお願い」と記載されている。

「信頼の厚い生徒会長なんだな、君は。面白みはないが」
皮肉っぽく口の端を上げて笑う校長先生は、もう威圧的には見えなかった。

最後に校長先生はこう続けた。
「アルバイトしている者の名簿、なんて物はなかった。生徒からの届を確認して今後作ることにはなるがね」

もしかしたら校長先生も他の先生と意見がぶつかって苦い思いをしたのかもしれない。

「「ありがとうございます」」
私と及川先輩は、声を揃えて頭を下げた。


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