そのイケメン、オタクですから!
大丈夫に決まってる。
だってあの男に殴られている少女は私じゃないんだから。

先生に伝えなくちゃ。
「高町先生、縛られて暴行された女の子は、私じゃない。あれはドラマの話で、私じゃないですよね。もう終わったこと、終わったこと……ほら、全然大丈夫」

「留……愛……?」

……驚愕の瞳で私を見つめていたのは……及川先輩だった。

今私はなんて言った?
ここは……どこ?

高町先生のクリニックじゃない。
いつもの診察室じゃない。

高町先生はいない。
じゃあ、どうしてあの事を思い出したの?

あれは記憶の中じゃなくて、今目の前に、本当にあの男がいたの……?

白と黒、ピンクのアイスクリームが床に散らばった瞬間が、まるでスローモーションみたいに見えた。
おかしいくらいに震え出した私の肩を抱いて、及川先輩が歩き出す。

あれは終わったことじゃなかったの?
私はもう一度あんな目に合うの?


……嫌だ嫌だ嫌だっ。
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