そのイケメン、オタクですから!
手首を掴まれて店の外に出た私は、思い切りその手を振り払った。

「やだっ、やめて。もうやだっ……痛いのは嫌。怖いよ……」

溢れる涙が止まらなくて、しゃがみ込んで膝を抱える。

もう嫌なの。
あんな思いは嫌なの。

怖いよ。
怖いよ……。

誰か助けてよ。
助けてよ……助けて……。

「おい、かわ先輩……怖い、よ。グスッ……助けて……ひっく……助けて……」

「留愛」

先輩の、こ、え……?

……。

…………。

「……助けに来た」


顔を上げたら、ヒーローがいた。
人通りの多い駅前で私と同じようにしゃがみ込んで、優しい瞳を向ける人。

「何があっても俺が助ける。留愛が好きだ」

恥ずかしがり屋の先輩が、こんなに目立つ場所で好きだなんて言うわけない。
だけどそれは……今私が一番欲しい言葉だった。

夕日に照らされたみたいな頬は、精一杯の彼の気持ちを私に教えてくれる。

「……先輩、ありがとう……」
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