そのイケメン、オタクですから!
「おい七瀬。コーヒー」
行儀悪く長い足を隣の椅子に乗せて、及川先輩が言った。

コーヒーって、お茶汲みOLじゃないんだから。
突っ込もうとしたけど、さっき何でもお申し付け下さいって言っちゃった事を思い出した。

でも普通入会したら最初にオリエンテーションとかあるもんじゃないの。
コーヒーなんてどこにあるかもわからないっての。

部屋を見渡すと長机が6つ、それぞれにパイプ椅子が3脚ずつ。各机にパソコンが置いてあるくらいで、後はロッカーとか棚とか。

生徒会のメンバーが数人机に向かって活動をしている。
誰に聞こうかな。
及川先輩には、聞かない方がいいよね。

こちらに目を向ける人は誰もいなくて、苦々しい顔で桜井先輩に助けを求める。

及川先輩が狼なら、桜井先輩は猫って感じ。
自由で気まぐれそうだけど、面白そうなことには首を突っ込みたいタイプじゃないかな。

「こっちだよ」って桜井先輩が、私とよっちゃんをポットの前に案内してくれた。
パーテーションで区切られたスペース。

ポットの上の棚を開けるとお茶やら紅茶のティーバックやら色々入っている。
コーヒーはインスタントとドリップがあるらしい。

「随分気に入られたね」
桜井先輩が笑いを含んだ声で囁いて、マグカップを出してくれた。

「気に入られたんですかね?」
私は眉を寄せて嫌な顔をする。

嫌われるよりはましだと思うけど、あの狼に気に入られたって良いことはなさそうですけれど。
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