そのイケメン、オタクですから!
「好きなバイトに出合う機会逃してる奴」
と付け加えて、お代官様はちょっと照れ臭そうに顔を背けた。

……び、びっくりした。

変な想像してすみません。
私の正体に気づいてて知らんふり出来るほど器用な人じゃないよね。
先輩はきっと私が思うより真っ直ぐな人だ。

今の話をしたのは、セノジュンレッドにじゃない。その時彼が近くにいたことも覚えてない。

でも先輩は、私の何気ない一言を覚えてたんだ。
覚えてて叶えようとしてくれてる。

先輩の中ではナナはここにいないのに。
この学校の誰かに、ナナみたいな思いをさせない為。

……不思議な人、だな。

「先輩、絶対頑張りましょうね! まずは選挙。私、応援演説について考えてたんですけど……」
何故だか視界がぼやけたのをごまかしたくて大きな声を出したら、前から歩いてきた人が「目ざわりだな」って舌打ちした。

今、わざと聞こえるように言ったよね?

……この人、斉藤先輩だ。
及川先輩のライバル。

「顔だけでチヤホヤされて、チャラチャラしてるくせに会長って、どうせ内申点稼ぎだろ」
及川先輩が言い返そうとしたのかはわからない。

その前に私が前に出てた。
「及川先輩はそんなんじゃないです! 真剣に学校の、生徒会のこと、んぐっ……」

んっ!
んんっ!
及川先輩の手で無理矢理口を塞がれた上、力任せに引っ張られて空いた教室に連れ込まれた。

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