そのイケメン、オタクですから!
桜井先輩?
自分の耳を疑う。

桜井先輩は及川先輩みたいに偉そうにしないし、非の打ちどころのないイケメンだよね。

「桜井先輩が? 何で?」
尋ねた私に「及川先輩より断然鋭そう。特に女の子の事に関しては」とよっちゃん。

健くんが「桜井って誰?」と首を突っ込んでくるから、面倒くさそうによっちゃんが説明している。

「その桜井って人もオタク系? リリ派かな……」って健くんが的外れなことを言って、よっちゃんが「バカじゃない」って頭をはたいた。

「何すんだよ」って言いながらも、健くんは全然怒っていない。
よっちゃんと健くんはいつもこんな感じで、二人で喋っているとまるでコントだ。

そっか。
桜井先輩の事なんて全然警戒してなかったけど、ナナを知らないからってばれないとは限らないんだよね。

桜井先輩の穏やかな微笑を思い出してうーんと唸る。
天使みたいなあの顔で「何か悩み事?」なんて聞かれたら、すべてを懺悔してしまいそうな自分がいる。

……確かに危ない。
天使は天使でも、堕天使かもしれない。

「留愛は騙されやすそうだから」とよっちゃんが言って、「だよな。すぐに人を信用するのは良し悪しだぜ」なんて健くんまでそれっぽく頷いてる。

私より数倍単純な健くんにだけは言われたくないけど、と言おうとしたらよっちゃんが口を挟んだ。

「健こそ、中学の時みたいに変な女に騙されないようにしたら?」
健くんが一瞬「うっ」という顔をしたけど「ずっと彼氏が出来ねー水島に言われたくねぇよ」って言い返した。

二人の間に飛び散る火花をスルーして、ふわふわのだし巻きをお箸で切る。
どうしたらこんなに柔らかくできるのかな。不思議だ。

でも二人の忠告はちゃんと心に留めておこう。
あの時よっちゃんと健くんのおかげで、私は助かったんだから。

あんなに火花を散らしてたくせにすぐに仲直りして、メインの出し巻きとサーモンフライを取り合ってた二人との楽しい夕食を終える。

「まぁ、私も気を付けるから、留愛はバイトに生徒会大変だと思うけど頑張ってね」
とよっちゃんに励まされて別れた。

そうだ、明日生徒会は休みだけどバイトがある。
これから忙しくなるけどがんばらないと。

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