そのイケメン、オタクですから!
先輩はちらりと視線を私に向けて言う。
「遅―よ。七瀬、コーヒー」

いつもと一緒だ。
「は、はいっ」
私はいつの間にか、パブロフの犬みたいになっている。

先輩にコーヒーって言われると勝手に身体が動くんだよね。
……だって先輩は、私にしかコーヒーを頼まない。

ポットの前でため息を一つ。
後ろに誰かが立ったことにも気づかずもう一つ。

「魂出てるよー」
「きゃあっ」
耳元で聞こえた笑いを含む声に飛びあがる。

「桜井先輩……からかうのやめて下さい……」
「だって七瀬ちゃん、こーんな顔してるよ」

桜井先輩が自分の目を横に引っ張って口をへの字に曲げる。
整った顔が宇宙人みたいになって「ぷっ」と噴き出してしまった。

先輩は満足したみたいで「いつも通りでいいと思うよ」と肩をポンポンして席に戻る。

桜井先輩って、やっぱり謎だ。

でも先輩のおかげかな、少し落ち着いてカップを取り出す。ちらりと及川先輩に目を向けると、真剣にパソコンに向き合ってる。
画面から視線を外さず左手で机の上を探り出した。
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