そのイケメン、オタクですから!
「ですよね。あ、この女の子、誰かに似てる気がする」
桜井先輩とスケッチブックを覗き込んで、よっちゃんが呟く。

ツインテールにぱっちりお目め。
……先輩、ナナでしょ、それ。

「先輩って、実はアニメとか好きなんですか?」
思い切って意地悪を言ってみた。

「…………帰る」
肯定も否定もせず、先輩は荷物をまとめて帰ろうとする。

「冗談です! さぁ、仕事しましょう。仕事!」
プリンターから出てきたアンケートを取って先輩に差し出すと、切れ長の目がキラリと光った。

「誤字脱字が多すぎる。文章が分かりにくい。
中途半端な敬語を使うな」

私の3時間は、あっという間に赤ペンで埋めつくされた。
先輩は勝ち誇った顔でプリントをひらひらさせて「はい、やり直し」と私の前に置く。

「それと冬休みは献血PRのボランティアと募金活動があるけど、準備するもんわかってんのか? 広報誌もまだ真っ白だったよな」

「次までにやっとけよ。じゃあな」
背を向けたまま手を振って、本当に帰って行っちゃった。

テスト勉強の時から宿題を出されるのは慣れっこになっちゃったけど、狼に噛みついた私が馬鹿だった。

山のような課題を前にため息をつく。

助けてくれるかと思った桜井先輩は窓の外に目をやって「お迎えだ。お疲れ」と笑顔で帰っていく。

校門前には青いスポーツカー。
左側のドアが開いてサングラスの女性が手を振った。

桜井先輩って女の趣味、悪いと思う。

最後の頼みのよっちゃんは「留愛が悪いよ。及川先輩の地雷踏んで、勝てるわけないじゃない」とニヤついてる。

はぁ……
もう、先輩をからかうのはやめとこう。
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