そのイケメン、オタクですから!
……忘れてる?
わけはないよね。
まさか冗談だった?

それともやっぱり私の事なんて好きじゃなかった?
箱にしまったままのネックレスは、日の目を見ることはなく引き出しの中だ。

複雑な思いが胸に浮かんで消えていく。
この胸の違和感の正体は、一体何なんだろう。

生徒会2年の女子の一人が、及川先輩の隣に座って、肩を寄せるようにしてパソコンの画面を覗く。
「及川君、このグラフどうやって作ったの?
私にも教えて欲しいなぁ」

妙に甘ったれた声。
自分だってバイト中はいつもあんな声出してるくせに、何だかイライラする。

「あ? そういうことは拓海にでも聞けよ。
大体近いっての」

先輩ってばデレデレしちゃって……。
いや、してないか。
「……せ」

やっぱり及川先輩って人気があるんだよね。
あの外見だから当然かもしれないけど。

……オタクのくせに。
先輩がオタクモードでそこに座ってたら、あの女の子も絶対あんな風に寄り添ったりしないくせに。

「七瀬」

オタクだってばれちゃえばいいのに。
で、女子誰にも相手にされなくなっちゃえばいいのに。

「七瀬、コーヒー!」
「えー、コーヒーなら私がー」

手首が引っ張られる。
……先輩との距離は20㎝で、切れ長の瞳とぶつかった。
近い……。

やばい、頬が熱い……。
目を逸らそうとした私より先に、手首が軽くなって先輩が顔を背ける。

斜め後ろからしか顔が見えないけど、ワックスで無造作に固めた髪から覗く耳が赤い。

「……」
「コーヒー……入れます」

慌てて背を向けてポットに向かう。
ポットの前はパーテーションで区切られてるから背伸びしないと先輩からは見えない。
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