そのイケメン、オタクですから!
一年で一番寒い時期、今日は特別北風が強くていつも活気のある街に人が少ない。
「暇だね、今日」

ふわぁ、隠れてあくびを一つ。
戦うメイドのリリのコスプレをした同僚がつまらなさそうに呟く。
「本当だよね。今日は指名稼げそうにないなぁ。でもいいよね。ナナは」

目配せされて常連様に目を向ける。
見慣れたギンガムチェックのシャツのヒーローが、机に突っ伏してる。

「サボってないで、ナナ、お客様とお話してきなさい。お得意様なんだから、座ってきてもいいから」
「えぇー」
突然後ろに立った店長に背中を押される。

行きたくないなぁ。
願いを込めて玄関を見るけど、自動ドアは開く気配を見せない。

背中には突き刺さるようなプレッシャー。
はいはい、行けばいいんでしょ。

「ご主人様。ナナも一緒にお話ししてもいいですかぁ?」

背のジュンジャーにニッコリ笑顔を向けると、セノジュンパープルが満面の笑みを返してくれる。

「ナナちゃん! おいでおいで。ほら、コイツ元気づけてやってよ。ナナちゃんのファンだから」

心の中でため息一つ。
顔には笑顔を張り付けて、上目遣いで1オクターブ高い声。
よし、大丈夫。

「ゆうぴょんご主人様ぁ。何か悲しいことがあったんですかぁ?」
顔を上げたヒーローは「ナ……いや、別に……」って目を逸らした。

代わりにセノジュンパープルが話し出す。
「コイツ同じ学校の好きな子に告白したんだよ。でも2ヶ月も返事もらえねーの」
「うるせーよ」
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