うそつきなあなたへ

王子のかさついた唇は震えて、頬には一筋の涙が流れていました。
少女は、何も言わずに王子の傍に近寄り、腕に抱きつき、体温を分け合いました。
今の少女の中にある言葉で、王子にかける慰めの言葉が出てこなかったのです。

「姫はとても温かいんだね。人ってみんなこんなにも温かいのかな」

「王子さまが、少し寒がりなだけよ。冬は私が温めてあげるから、夏は私を涼しくしてくれればいいわ」

「それは、名案だね」

王子はふふっと笑い、それから少女の肩に頭を預けました。
その重さは、決して不快なものでなく心地いいとさえ思いました。

ずっと、このまま静かに時間がすぎてくれてたらいいのに。

そんな少女の願いは、すぐに打ち砕かれました。

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