うそつきなあなたへ
「働きたいですって言えば、すぐに働けるわけじゃない。世の中は、あんたが思っているほど簡単じゃないんだ。見えない底は、どろどろとして醜い。ただ、みんな意識して見ていないだけさ。大きくなったらわかるようになる」
「そんなの見たくない」
「嫌でも見えるよ。この世の全てがな」
外は暗くなってきて、火で旅人の顔に影が出来て、一層不気味な空気にさせました。
「今のあんたは、正しいことは正しい、間違っていることは間違っていると言える。そう教育されてきたんだからな。けどな、数年もして社会に出たら、それが通用するとは限らないんだ。なんでか分かるか。それは、俺たちが人間だからだ。
人間だから感情をもっている。理不尽っていうのは人間が自ら生み出すものさ。
人より楽がしたい、人より良いものを身に着けたい、人より優れている自分を見せびらかしたい、その欲がときには世の中のルールを変えることがあるんだ。
それは、知らない間にじわじわと変化する。気づいたときにもう怖いもんだぜ。声に出して、それを違うと言えばすぐさま消される。それは、正義の名の下で裁かれるんだ。少数派が見せしめとされ、誰も口に出さなくなる。
そうやって、黒は白へと変わる。カラスは白になるんだ」