【短編】Once more
「ここはね、お父さんとお母さんの思い出の場所なのよ」
数年の時がたち、奏多と詩歩という二人の子どもにも恵まれて、私たちは再び、今度は四人で観覧車に乗っていた。
「懐かしいなー。あの時はまさか、二回もプロポーズさせられるとは思っても見なかったけど」
「いい思い出でしょ」
「だな」
あの頃の気持ちを今でも忘れていない私に対して、少し変わってしまった愁に、長い時間寂しくて辛い思いをさせられた。
そんな私は、この前愁に、最終手段として離婚届を叩きつけた。
「おかあさんプロポーズってなにー?」
「結婚してくださいって言うことだよ」
私のかわりに隣に座っていた詩歩に、愁は頭を撫でながら答えてくれた。
「えーっ、すごーい! けっこんけっこん」
よく意味が分かっているのか定かではないけれど、奏多が一人はしゃぎだす。
そんな光景を見ながら、思わず笑みが零れる。
愁も変わったようで、変わっていなかった。
やり直したいって言ってくれて、土下座までした。
まだ愛されてたんだなって、今凄く嬉しいんだよ。
「ほらっ、もうすぐてっぺんだよ」
愁が外を指差しながら、子どもたちに目線を送る。
みんなで街並みを眺める。
こんな広い町の中で私たちはどんなにちっぽけなんだろう。
そんな中で出会えた奇跡。
「愁、愛してるよ」
大事にしたい。
どんなにつらいことや苦しいことがあっても、生きている限り、今がある限り、終わりはないんだから。
別れたくなくて必死になってもがいて、今があるからよかった。
「あー、おとうさんまっかーっ」
「ほんとまっかっかー」
二人の子どもがはしゃぎだす。
そんな様子を見て思わず吹き出す。
「うるさいっ」
「あー、すねたー」
「ふてくされたー」
ねぇ、また同じようなことがあっても、私は必死になるよ。
愁と奏多と詩歩と、ずっと一緒に生きていきたいから。
泣いて笑って、怒って喜んで。
これから先もずっと、同じ気持ちを共有していこうね。
【END】